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『冬のサマーハウス(その2)』ドロッペさんのハーデソーブラー

2016年02月15日 更新▲

hadetsabraヘッダー

 

こんにちは。ティンドラ・ドロッペです。前回に引き続き、サマーハウスのお話(その2)後半です。電気・水道・ガスを引いていない所で、真冬の休暇!?ここにこそ、北欧マインドがつまっているんです。

 

 

前回のお話
『冬のサマーハウス(その1)』はこちら

 

 

サマーハウス滞在2日目、気温マイナス5度、晴れ。
のんびりした朝ごはんを食べ終わる頃には、太陽も低い空にやわらかい光となって、雲の向こうに存在を感じます。

 

「森の散歩にでかけましょう!素晴らしい景色を見せたいの。」
素敵な提案にうなづかない理由などありません。しっかり着込んで雪山歩きに出かけました。
まっ白に染まる森でも、5km歩けば体は熱くなります。生まれたての風が樹々を揺らし、ひんやりと頬をなでていきます。
空気はきらめき、爽やかな針葉樹の香りに、思わず何度も深呼吸。とても気持ちのよいヒーリング散歩です。
雪のキャンパスには、動物達の足跡。シカ、ウサギ、小鳥たち、そしてゾウが歩いたかのような足跡を残したのはシカ科最大種、ムース(ヘラジカ)のものです。私達人間が3人歩いた後は道になっていきます。

 

 

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森を抜け、うっすらと氷の張る湖を通って到着した高台の物見やぐらに登ると、そこには見渡す限り、濃い緑色の景色が広がっていました。
さえぎるものは何一つありません。針葉樹の森は、まるで深緑のカーペットのように大地を包み、天と地を分ける線を360度描いています。

 

「見て!これがスカンジナビアの大地よ!これを見せたかったの。スカンジナビアへようこそ。」そう言って、カーンが私の顔を覗き込みます。

 

広大な大自然の中で、私の存在は針で突いた点ほどもない・・・日々積もった疲労も苦悩もすべて吸い取られていきます。「ちっぽけ、ちっぽけ」心の中でそう繰り返すうちに、なんでもないことのように心が晴れていくのです。

 

 

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360度ぐるっとこの景色   うっすらと湖も凍った

 

 

 

3日目は、6km離れたお隣、ヨンナおばさんが遊びにきました。午後からはロバートに勧められて、クロスカントリースキーを初体験。ロバートが屋根裏から出してきたスキー板は、スキーをしたことがない私が見ても、“スキー博物館”とかあったとしたら、そこに展示されていてもおかしくないくらいクラッシックなものでした。

 

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6km先のお隣、ヨンナおばさんのソリ。
これで買い物にも行くのだそう

 

年代モノのスキー板。
当然ストックも木製。

 

 

「じゃあ、ちょっとそこまで行ってみよう!」と、簡単に言われたものの、途中で何度もスキー板の留め金がはずれ「待ってー!」「ゴールはどこ~?」。ロバートについて行くことに必死です。ロバートの「ちょっとそこまで」は、なんと往復6km!慎重に足元ばかり見て2時間。なんとかころばずにサマーハウスに戻ってきた頃は、すっかり日が落ちていました。

 

「顔をあげてみて!これがホーム・スイート・ホームだよ。」。闇に包まれかけている森の中に、キャンドルが灯る窓が見えました。なんと暖かい光なんでしょう。私達の帰りを待って、カーンが灯してくれていたキャンドルの明かり。そしてチムニーからは、もくもくと煙が。あの窓の向こうで、カーンが温かい料理を作ってくれているんだ!疲れも不安も一瞬にして消えてしまうのでした。

 

 

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cozyなダイニング   キャンドルは各窓辺に

 

 

 

サマーハウスには、電気もガスも水道もありません。
引こうと思えば、いつでも引けるのです。ただ、彼らはあえて引いていないのです。

 

サマーハウスにある道具達は、コレクションというものではなく、味のある古い物ばかりです。いつからかそこにあるといった佇まいで、飾られているわけではなく、すべてが現役で使われています。手入れをして長く愛着を持って、家族に引き継がれてきたものです。

 

サマーハウスで過ごす時間は、百年前の暮らしと大きく変わりはありません。でも、原始的な暮らしに戻るわけではなく、人間が持っている本来の能力を発揮するだけです。陽の光に合わせて営み、娯楽のない夜は語らい絆を深めます。男はたくましく頼りがいがあり、女は優しくあたたかい。そしてささいな自然の変化にお互いに心をふるわせて、知恵を絞るのです。

 

「せっかくの休暇なのに、日常と同じことをしてもつまらないじゃない?」カーンもロバートもそう言います。一見すると不便にも思えることも楽しんでしまう、そうしている内に日常の煩わしさやストレスから解放されるのです。
ロバートが教えてくれた「時をすごす家(フリッチスフース)」。その意味がぴったりと、手に取るように理解できました。

 

<休暇>という概念が日本とは、根本的に違うけれど、“時をすごす家”、素敵な考え方です。彼らに限らず、北欧の人たちは“時間の質”に対する意識が非常に高く、心の豊かさとくつろぎを見出すことに長けています。世の中が便利になればなるほど、失っていくものも多いとよく知っていて、ひとりの人間の持つ弱さや痛みも知っているように思います。贅沢したり、楽をする休暇ではありませんが、人としての本質を見失わないため、明日からの活力のために必要な時間を過ごしているのです。

 

 

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小鳥に餌を置いていくカーン   このコーナーのタイトル画
帰路スコーネ地方の景色

 


滞在4日目。気温マイナス9.5度、晴れ。

冬のサマーハウスに滞在することで癒され、リセットできたことは間違いなく、明日からの私に不要なモノは、ここに全部おいて行くことができました。満点の星空から、針葉樹の森からは、沢山のおみやげをもらって、コペンハーゲンへの帰路に着きます。
赤い家を出る時、カーンが小鳥たちに、餌をたっぷりと置いていきました。「ちゃんと冬を越すのよ~。」小鳥たちのさえずる声にも、たくさん癒されましたものね。

 

 

この場をお借りして、あらためてカーンとロバートに感謝を。

 

 

おまけ。
ベストシーズンのサマーハウス

 

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