特集:カンボジア王国
2013年03月27日 更新▲ Kingdom of Cambodia
Dawn at the temple: Ankor Wat at sunrise, Siem Reap, Cambodia / victoriapeckham
相手は電話を切ろうとしなかった。
押し黙る僕の背後に耳を澄まして
辺りの音を探るように息を潜めている。
電話の主に見当はついていた。
それでも僕は万全を期して
黙っていることにした。
幸い、張りつめた朝には
鳥も遠慮がちに囀る。
長い静寂に痺れを切らしたのか
終始無言のまま、通話のランプは消えた。
手中で湿った電話をポケットに
僕は目当ての場所へと向かう。
「だれにもひみつのやくそく」
仲間たちは覚えているのだろうか。
水面を滑る風が愉しげに
アンコール・ワットの輪郭を揺らしている。
Phnom Pehn – Cambodia / Amber de Bruin Siem Raep – Cambodia / Amber de Bruin
Cambodia Bay / Quiltsalad Fantastic food / robertpaulyoung
ヒンドゥの神が宿り、王の偉大さを語るカンボジアの世界遺産「アンコール・ワット」。
そこには息をのむほどに精巧な壁面装飾が施され、知れば知るほどに嵌まり込みそうな、神々の物語が刻まれている。登山並みにハードな行程といわれる遺跡群ながらも、そこでは絹衣をまとったデヴァター(女神)や微笑むクメール人像など、石造りとは思えない程に柔らかなモチーフ達が迎えてくれる。
そんなカンボジアの歴史も、1970年代から続いた内戦で暗い影を落とす。
ポルポト政権下での大虐殺、内戦終結後も続く地雷被害や貧困、農村部で絶えない人身売買・・・。ゴミ山で働く幼い子どもの映像を目にした方も多いだろう。神の棲む聖なる国が落ちた凄惨な谷底。そして、日系企業の進出など国際的な支援によって見出されつつある、再生への道。どれもが現実で、これらに目を背けてカンボジアを語ることなどできない。
「日本人好み」とも称される、優しい味わいのクメール料理。口にしたときのほのかな酸味に、郷愁にも似た思いがこみ上げるかもしれない。
2013年、日本とカンボジアは友好60周年を迎える。
★今は夫婦ふたりだけ。突然の入院が心配です(60代女性)