サステイナブルツーリズムとは?
2021年12月24日 更新▲国連が提唱している「持続可能な開発目標(SDGs )」は、2016年から2030年までの世界全体の開発目標で、「サステイナビリティ(持続可能性)」が世界共通のキーワードとなっています。2017年が国連「開発のための持続可能な観光の国際年」に指定されるなど、観光においても例外ではなく、アフターコロナで、ますますその方向性は高まってくるでしょう。旅行においての持続可能性「サスティナブルツーリズム」とはどういうことでしょうか?
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サスティナブルツーリズムとは?
サスティナブルツーリズムとは、直訳すると「持続可能な観光」という意味になります。
国連世界観光機構(UNWTO)によると「持続可能な観光」は以下のように定義されています。
「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」
サスティナブルツーリズムが提唱される背景には、これまで主に先進国で大衆に広まった「マスツーリズム」があります。特定の場所に人が集中することで商業化が進み、環境への負荷に目をつぶってきた結果、その土地本来の姿が薄れ、文化や伝統などをも知らず知らず、少しずつ、しかし時間の経過と共に大きなダメージへとつながっていることが問題視されています。消費収奪型の観光ではなく、その地域本来の持つ魅力を伝え続けることができる「サスティナブルツーリズム(持続可能な観光)」にシフトしていくことが求められています。
●マスツーリズムによる弊害と言われているもの
自然を壊す観光施設の建設
観光地のゴミの増加、大気汚染
- 観光地の文化や社会を無視した文化の切り売り
- 観光客を相手にした窃盗、詐欺などの犯罪
経済・環境・社会 3つの観点で
SDGs で提唱された「サスティナブルツーリズム」では、地域の資源である「自然」や「文化」「伝統」を守り、「そこに暮らす人々」を活かして、外からの旅行者を受け入れ、地域経済を発展させること。そして、その地域の教育・福祉・コミュニティの活性化などの課題とつなげ、観光を手法に地域づくりに貢献することが重要と考えられています。
「サスティナブルツーリズム」と似ている言葉に「エコツーリズム」や「ネーチャーツーリズム」があります。どちらもサスティナブルツーリズムにつながるものではありますが、「サスティナブルツーリズム」では、自然環境に配慮しつつ、観光地という特性を持ったエリアを経済面でも守ることが求められ、経済・環境・社会文化的観点でバランスの取れた旅行のことを言います。
サスティナブルツーリズムは、「サスティナブルツーリズム国際認証」と言われる国際的に認められた地域のみに与えられる国際認証があります。
「サスティナブルツーリズム国際認証」は、国連が進める観光上の持続可能性を指標化したものです。なにをもってサステイナブルとするか、具体的にどんな活動が伴うのかを、世界基準のチェック項目で示しています。この基準を元に、今後求められる「持続可能な観光地域づくり」とは何か、どう取り組んでいくかが考えられています。◆海外の事例
【ニュージーランド】
ホテル「シャーウッド」の取り組み
地域文化・環境の保全を第一ととらえた観光業のあり方として、注目され、成功例のよき参考になるのがニュージーランド・クイーンズタウンにあるホテル「シャーウッド」です。
レストランで提供される食材の99%はニュージーランド産のもの。野菜の40%が敷地内にある畑で採れたオーガニックのもの。飲み物の60%は家族経営のワイナリーの商品が提供されているなど、地産地消が実現されています。地産地消の割合が高いほど、輸送から生じる二酸化炭素を削減できます。
電力面では、施設内の248枚のソーラーパネルで電力を賄っており、無駄に発電することのないよう、余分な電力は送電網に返す仕組みになっています。インテリアにおいては、リサイクル製品、廃材が活用されているという徹底ぶり。キッチンや風呂場の床はタイヤの廃材を、カーテンは軍隊の羊毛ブランケットを、カーペットには漁で用いられた網を再利用するなど、館内のあらゆるものがリサイクル廃材と言いますから、どんなリユースがされているのか、気になってみに行きたくなります。
その他、地域のアーティストやインストラクターによる体験型のイベントも開催されており、地域住民の雇用、収入源も創生しています。
スタイリッシュで居心地の良さも実現している「シャーウッド」のHPは、コンセプトも明確
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Sherwood Queenstown【フィンランド】
フィンランド政府観光局より
フィンランドでは、旅行時における行動に対する誓約書を設けています。もともと環境への取り組みでは先進国のフィンランド。国民の意識も非常に高い国です。そのフィンランドで旅行者に署名を求めている誓約書がこちらです。一つの取り組みとして紹介します。
何百万年にもわたり、自然が私たちを支えてきてくれました。今度は私たちが自然をいたわる番です。サステイナブル・フィンランド誓約への署名は、フィンランドを旅する際に、フィンランドの自然と住人、文化を尊重し、大切にすることを約束するものです。
旅行中にフィンランド人のように内面からスローダウンします。
ありのままの自然に囲まれるとリラックスして自然との結びつきを取り戻すことができます。
自然を最大限に尊重して大切にすることを誓います。
森と湖はプラスティックで汚染されるべきではありません。私はゴミを後に残しません。
気候を最優先し、世界で一番のフィンランドの水道水で渇いた喉を癒します。
フィンランドの自然享受権は私たちに平等に与えられた権利です。
この権利は、責任を持って楽しむべきものです。
ベリーとキノコは摘んで食べてよいものですが、
踏み固められてできた小道を外れることはしません。
人類が存在するずっと前から大自然は存在していました。
キャンプをするときには設営場所に注意します。
地元の人たちの生活も尊重します。そこで生活する人々に配慮して、
むやみに写真を撮ったり大声で話したりすることは慎みます。
フィンランド人は少しよそよそしい時がある人たちだということは分かっていますが、
この誓約に署名し信頼を獲得します。
引用:Visitfinland
「郷に入れば郷に従え」と言いますが、日本には暗黙の了解のようなものが多く、外国の方々が日本を訪れた場合、深く暮らしに馴染んでいかないとわからないことが多くあると思われます。ましてやほんの一瞬訪れる観光客には、おもてなし精神も発揮し、不文律的なものを強いることはあまりないと思います。しかし、フィンランドの宣誓書ように、たとえ旅行者であっても守ってほしいことや、踏み込むべきではないことが明確にされていると、その国の文化や習慣もよくわかり、互いへのリスペクトが大事だとわかります。フィンランドの宣誓書にはユニークな文面も加わり、清々しく受け入れられるのではないでしょうか。
海外旅行へ行く際、私たちができること
先にも述べたように、消費収奪型の観光は、その地の経済は一過性の潤いはあるかもしれませんが、商業化が進むと、闇雲に環境や文化を破壊してしまうことになりかねません。地域住民が大切にしている習慣、場所、歴史、伝統文化、食文化、言語など異文化を理解すること。そしてそこに暮らしがあることを念頭に、住民が気持ちよく観光客を受け入れるためへの配慮を心がけ、生活環境を守ることが第一歩となります。サスティナブルツーリズムでは、自然環境にできる限り負荷を与えずに、自然を活用した観光であることが大切なポイントになります。ゴミを出さないようにする、決められた場所でルールに沿ったゴミの捨て方を守り、捨てるところがなければ持ち帰るなど、観光客として当然のマナーを身につけることです。
社会全体で平等に利益を得られるような公平な経済が大切です。一部の企業が観光によって利益を得るような経済に加担するようなことがないよう気をつけましょう。
宿泊施設、移動に使われる交通など、経済・環境・社会 3つの観点でサスティナブルな取り組みがなされている所を積極的に利用するのも、もちろんサスティナブルツーリズムの一環となります。
いかがでしたか?
サスティナブルツーリズムについては、英調査会社のエコノミストインパクト社によって、アジア太平洋地域9カ国を対象に意識調査が行われています。このうち、日本での結果を見てみると、「持続可能な旅行が自分にとってどれほど重要だと思うか」との問いに対し、68.6%が重要と回答したということです。コロナ禍における海外旅行の動向として「持続可能な旅行」への高い意識が伺えた結果となっています。自由に安心して海外に旅行に行けるようになるには、もう少し時間がかかりそうですが、再開された時には、地域コミュニティへの貢献や、その地域の文化と有意義につながる方法を模索することを念頭に、旅の計画を練っていくことになりそうです。