チェコのマリオネットに秘められたもの
2013年01月21日 更新▲「マリオネット」という響きに、どこか物悲しさを感じたら、それはチェコが歩んできた歴史のせいかもしれません。
15世紀の前半からハプスブルク家の支配下となったチェコでは、ドイツ化を強いられ「暗黒」と呼ばれる時代が続きました。チェコの言語や文化は低俗なものとして扱われ、公に使用することを禁じられたのです。そんな中で、紀元前の信仰儀式が起源とされる人形劇(マリオネット)だけが、ひっそりとチェコ語で上演され続け、後にチェコ民族復興運動の支えともなりました。人形(パペット)たちの小さな体には、チェコ人の魂が吹き込まれ、彼らの代弁者としてこの時代を生き抜いたのです。
人形劇のテーマは、プラハの伝説や家族の日常、男女の愛など様々ですが、メルヘンの世界でありながらも人形はちょっぴりグロテスク。道化役のおどけたパペットでさえも、その哀愁を帯びた眼差しからは今にも心を見透かされてしまいそうな凄みが感じられます。歴史的背景から、単なる娯楽という立ち位置ではいられなかったマリオネットの苦悩が、そこに見え隠れしているのかもしれません。
マリオネット劇場(博物館を併設)
Marionette Museum / idleformat
今では観光客向けに英語での上演もあるマリオネット。代表的な劇場は、オーソドックスな演出に定評のある国立マリオネット劇場などですが、プラハの街をめぐれば約50箇所もの劇場が点在しています。中には人形劇学科の学生らが上演する「ディスク劇場」や、人形劇ばかりをひたすら上演している市営の「ミノル劇場」など、本場ならではの地元密着型の劇場もちらほら。
もしもマリオネットを初めて鑑賞するなら、やはりオペラの名演目でもあるモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」が王道です。ご存知のとおり「女たらしが地獄に落ちる話」ですが、チェコに漂う独特の切なさを体感するには、この喜劇とも悲劇ともとれる作品に触れるのが、なぜかぴったりのような気がするのです。
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